教授あいさつ
これからの医学・医療を切り開くPhysician-Scientistを
若い医師たちには目指してほしい。
教授 米田 政志
愛知医科大学内科学講座は、かつてはいわゆるナンバー内科として第1内科から第4内科まで存在していました。2001年に臓器別編成となり消化器内科が誕生して初代教授にそれまで第1内科の教授を務められていた各務伸一先生が就任されました。各務先生が2007年に定年退官された後の2007年9月に後任として私が着任させていただきました。その後さらに臓器別編成が細分化されて消化器内科が肝胆膵内科と消化管内科に再編成されて現在の内科学講座(肝胆膵内科)となりました。先代の各務教授は肝臓病学の大家であり、私はその肝臓病の臨床・教育・研究を引き継ぐとともに内視鏡検査を駆使した内科的治療の最先端である胆膵領域を担当させていただくこととなりました。
肝胆膵内科においては、国の肝疾患拠点病院の認定を受けて、最新の治療薬を用いたウイルス性慢性肝疾患の治療、超音波誘導下肝癌治療に取り組んでいます。私は最近にわかに注目を集めているメタボリックシンドロームの肝臓での表現型である非アルコール性脂肪性疾患(NAFLD)と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の研究に日本人としてはいち早く取り組み、現在では広く行われているビタミンE治療、アンギオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)治療およびフィブロスキャン®による診断法を世界に先駆けて開発・発信してきました。現在では我々の業績をもとに日本をはじめ諸外国のNAFLD/NASHのガイドラインにビタミンEとARBによる治療が推奨され、フィブロスキャン®による線維化診断は世界の標準手技になっています。またこれら我々のNAFLD/NASHに対する取り組みはテレビや新聞で度々取り上げられています。さらに日本消化器病学会・日本肝臓学会の診療ガイドライン委員を拝命し、我々の教室はNAFLD/NASH診療ガイドラインの策定を担当しております。またC型肝炎の治療がほぼ完遂できるようになった現在ではウイルス排除の困難なB型肝炎ウイルスの根絶に向けて世界中の学者が取り組んでいますが、当教室においてはB型肝炎ウイルスの肝細胞への侵入経路を断つというユニークな手法を用い、世界中から高い評価を受けて国からも大型の公的研究費を取得しており、臨床応用に向けて着実に一歩ずつ進んでいるところです。我々の胆膵診療グループは積極的に内視鏡を駆使した検査と治療の開発を積極的に行っており、独自の着眼点による新たな手技とデバイスの開発で国際的に評価の高いジャーナルに多くの論文を発表し、さらに産学官連携による低侵襲の胆膵疾患に対する診断・治療装置の国家的な開発研究にも参加して世界に最先端の医療技術を発信するべく研究に心血を注いでおります。
私は「日々の臨床から研究に、そして研究は臨床にフィードバックすべき」をモットーに、日常診療と研究を行うように教室員には指導しております。研究のヒントはちょっとした日常の診療から生まれ、それを元にした研究は必ずしや臨床に役立つものであります。
医師になるためには医学部で6年間の勉強を積んできます。私はその6年間の血の滲むような努力をぜひとも社会のために還元してもらいたいと常々考えています。そのためには、ただ患者を診るだけの医者になるのではなく、これからの医学・医療を切り開くPhysician-Scientist(あるいはScientist-Physician)を若い医師たちには目指してほしいと思っています。残念ながら日本はこのPhysician-Scientistという概念で大きく欧米諸国に後れをとり、その結果多くの治療や検査手技が海外の発明・発案であるために特許料等の支払いで医療が大きな貿易赤字を生み出してしまっています。ぜひ若い先生方に我々の診療・研究に加わっていただいて未来の日本の医療・医学を一緒に切り開いていきたいと切に思っています。